栂尾神社を後にし、R388を西へと急ぐ。日が暮れる前に峠を越えないとヤバそうだった。路肩が崩れ落ち、ガードレールも反射板もない道を暗闇の中走らなければならないなんて、考えただけでもゾッとする。"大河内越全面通行止 迂回路無"この看板を何度見送ったことか。バイクなら通れないことは無いだろう、安易な考えで進み続ける。
何もない深い谷間から徐々に高度を増してゆく。峠に近づいてきた証拠だ。夕日が辺りを赤く染めていく。最高地点には一枚の看板が置かれ、トラロープで完全に閉鎖されていた。ロープを解き、バリケードの横を擦り抜ける。ここから先は下りが続いてゆく。バイクを降り、先の道を確かめに行く。迂闊に進んでUターンが出来なくなるなど最悪だ。
小走りに坂を下って行くと通行止地点はすぐだった。道が全て崩落し、ブルーシートで養生してある。その幅およそ20m程か。これでは無理だ。何より絶望感を増したのはそこに駐められた一台のトライアル車。後でトランポで回収するつもりか、カバーが掛けられ放置されている。トライアルで越せないことは無いであろうからガス欠か?とにかくオンロードでは絶望的だ。
急いで引き返さなければならない。ガスの残量を計算する。おそらくは一つ目と思った交差点を北に行くのが、教えて貰った道なのであろう。30km近く戻らなければならない。そこからさらに椎葉村役場辺りまでは直線でも10km以上ある。その辺りまで大丈夫だが、GSがある保証など何処にもない。エンジンをかけずにニュートラルに入れたまま、坂を下る。ガス欠と日没の恐怖に追いかけられながら今来た道をひたすら戻った。
一つ目の交差点に到着した。そこに掲げられた看板には、大河内越通行止の為、特別に解放しているようなことが書いてある。神門神社で聞いた話では、この道ですら最近まで通行止めであったという。暫く進むとダート区間に差し掛かった。明るい内に辿り着けて良かった。ヘッドライトだけでこの道は辛すぎる。新しく開通したというトンネルを抜ける頃には、夜の帳包まれてしまった。
"北に抜ければ何とかなる"その思いは、直ぐに打ちのめされた。湖の横を走る国道は唯、街灯が煌々と灯るだけであった。此処で選ばなければならなくなった。村役場方面へ在るかもしれないGSを求め走るか、R265を辿り一番近い町を目指すか。1kmも無駄には走りたくなかった。一番近い町でも30kmは離れている。村役場まで行き給油出来なければ、その町にすら辿り着くことは出来ないかもしれない。それだけは避けなければならない。
町へと向かい初めて直ぐに警告灯が灯る。この選択が正しかった事を祈り、ひたすらエコライド。回転数を一定に保ち、ハイギアで走る。トリップメーターは初めて200km以上を指し示すこととなった。
漸く町へと差し掛かる。時刻は午後六時半、交差点にあるGSの灯りは既に消えていた。町全体が眠りについている。街灯がわずかに明かりを灯すだけだ。再びツーリングマップルを取り出し、最寄りのGSを探す。あと保って10kmであろう。その時一台の車が停まる。
"どうしました?"車から一人の男性が降りてくる。給油したいので、近くにGSが無いかと尋ねる。残念ながら近くには無いらしい。男性は向かいの家の人に声をかける。既に閉まっているGSで給油出来ないか聞いてくれている。素直に好意に甘える。手持ち無沙汰な私は娘さんと会話を続ける。椎葉村は九州で最も田舎で、六時を過ぎれば殆どの店が閉まってしまうという。
GSは店員が鍵を持って帰るのでやはり給油出来ないそうだ。知り合いのGSがまだやっているかもしれないので電話をかけてみるとのこと。何から何までしていただいて、恐縮至極である。七時半まで営業しているそうだ。時刻は七時二十分。10km程離れているそうだが何とか間に合いそうだ。お礼も早々に、お別れしてしまった。せめて住所とお名前を聞いておけば、後で礼状の一つも書けたモノであるのだが。
次こそ親切に触れたときは、恩返しをせねばなるまい。そんな想いがいつも積み重なっていく。
(道の駅不知火に続く)
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