2011年9月2日金曜日

再会を誓い合った焼肉や(味見屋かくれ家)

予算¥2,200(せせり、きも、砂ずり、各2本¥260の半額、ホルモン脂身焼¥600、キリンラガー中瓶x1、生中x1、キリンラガー中瓶(おごり)、生中(おごり))

 さすがは但馬。蟲養いのついでにビールの一本でも付けられそうな店はないかなと、日も暮れた街道を走るも、焼肉の文字を浮かび上がらせる看板がポツリポツリと灯るだけだった。ボクは焼肉なんてあまり好みやしないし、ましてや一人旅の独り焼肉ときた日には、初日の晩にして早くも帰ろっかな、っと寂しい気持でいっぱいになること請合いである。そう思いつつも、終いに一軒の焼肉やの暖簾を潜ったって理由には、これ以上居酒屋を探したところで焼肉や以外に見つかる保証もないし、店の前に掲げられた"焼鳥半額"の看板からここには焼鳥もあるのかと思ったからだった。独り焼鳥ならむしろ望むところだし、それが安いならそれに越したことはなからって理由からだった。

 小上りには、幼子を連れて和やかな空気を湛える家族が一組と、静かに愚痴を溢すスーツ姿のサラリーマンらしき二人がひとつ空けたテーブルでジョッキを重ねている。もちろんボクはそんな場に独りで立向う度胸など無く、カウンターの片隅に瓶ビールを頼みながら腰を据えたのだった。
 ふたつほど席を置いたその向こうには、ボクと同じ年配の男性と、それより二回りほど年上の男性がその奥に並んでいた。
 「自転車で廻ってはるんですか?」
 何処を廻っていても興味本位からそんな声を掛けられることは多い。消耗し尽くしていたボクは、自分でも信じられないほど愛想無くそれに応える。
 そんなおざなりに返す受け答えも、メートルが上がれば滑らかに、言葉多く、愛想良くなっていく。
 そこに「おごらせてください」と瓶ビール一本加えられ、さらに拍車がかかる。
 
 「ここのオススメはなんですか?」と尋ねると、たっぷりと厚みがあり柔らかくジューシーな牛タンが一番美味いと教えられた。「今日は仕入れが無くて、注文できひんけどな」と付加えられる。それなら他には?と聞くと、「ホルモン脂身焼も旨いで」と言う。「脂身の方は火を通さなくても大丈夫やから、身の方だけを炙って喰うのが最高」なそうだ。そない助言を受けても独り焼肉をするまでの度胸は無いので、「それ、焼いて」と店主に告げていた。
 
 甘く拡がる但馬の牛の脂の塊なそれは、今日一日で費やしたカロリーを上回る程にしなびた躰に染みこんでいき、さらに余計なモンを付けていくような美味さだった。
 「ご飯が欲しくなる味っしょ」と、もう一つのオススメである大釜で焚くというご飯も勧められるが、ボクは酒でカロリーを摂るタイプなので、ご飯を食べると呑めなくなるので、と頑なに断り続けていた。

 「奥さんが居なければ泊まっていってもらうんやけど」なんて申し訳なささそうに囁かれた過ぎたる誘いに「イヤイヤイヤイヤ、ソコマデアマエルワケニハ」と返す。それを咎めるかのように奥さんから帰ってこいやコールが入り、「色々と楽しい話を聞かせて貰って、楽しかったです」と握手を交わし、別れを告げる。
 「ゆっくり呑んでいって下さい」と、さらに差出された生ビールを味わいながら、店主と語った小一時間。但馬の見所を教えて貰いながらの掛替えのないひととき。むしろこちらが"奢らせてください"と言わなければならなかった一夜だったのだが。

味見屋かくれ家
住所:兵庫県朝来市多々良木218
電話:079-678-1859

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