「 摩尼寺は鳥取砂丘から国道九号線を跨ぎ、林道を深く入った山麓にあり、古くから因幡地方の信仰を集めてきました。本尊は千手観音菩薩、帝釈天を祀り湖山長者の伝説が伝えられている古刹です。
境内は門前から急な石段を三百余り登ったところにあり、途中の仁王門から更に上段へと通じています。両側の繁みには石仏安置し、参詣者に菩薩の功徳を授けています。山門を入ると正面に千徳殿と呼ばれる本堂が重鎮し、丈六仏に近い四天王を中尊に聖衆郡像を安置しています。続いて十王堂と三祖堂があり、その前には藤原秀衡の病気平癒を祈願したという杉の切株も残っています。さらに奥まった台地に建てられた摂取殿には善光寺分身如来が祀られています。山頂の奥の院には、帝釈天が出現したという霊跡など多くの遺跡も点在しています。
古くから、摩尼山には亡き人の霊魂が集まると信じられてきました。奥ノ院法界地の地蔵尊には多くの位牌が並び、霊魂を呼び戻したと伝える摩尼山の信仰が脈々と息づいています。」
朝まだ早い午前七時前。門前に立並ぶ茶屋はもちろんのこと、金堂や納経所が開くまでにも時間はまだあるだろう。それまでの間、境内でひと眠りさせてもらおうと思っていたのだが、三百段余りの石段を上りきると堂宇の扉を開けて廻る寺男の姿が目に入った。
それを追立てるかのように思われぬよう、のんびりと参拝していく。TVを点け、茶を煎れ、一息ついたぐらいの時間を置いて、納経所に声をかけた。
「この後どちらへ向かわれる予定ですか?」明らかに自転車旅行中ですといった格好を受けてか、そんな質問が出た。
「城崎に行ってそこから南に下るつもりです」当初の予定をそのまま答えたが、昨夜から調子が良くない膝を思うと、ここで切上げた方がいいのではないかと思い始めていた。
「それならこれを差し上げましょう」と鳥取周辺のガイドマップを手渡し、鳥取から東へと向かう海岸線の美しさを淡々と語り出した。その口調は穏やかであり、日本海の静けさにも似て、ボクの心を緩やかに揺さぶった。その道を走ってみたいと思った。その風景の中に身を置きたいと思った。他にも多くのコトを教えられ、礼を述べ、寺を後にした。石段に差し掛かり、後ろを振り返ると、納経所の奥にTVを見詰める寺男の姿が見えた。一段また一段と石段を下る。三百段にも及ぶその全てを下り終えた頃、再び膝の内側に鈍い痛みが走り始めていた。門前の茶屋はまだ開く素振りすら見せていない。ボクは自転車に跨り坂を下る。向かったのは鳥取駅。そしてそのまま電車に乗った。
喜見山摩尼寺(きけんざんまにじ)
所在地:鳥取県鳥取市覚寺624
電話:0857-23-5300
宗派:天台宗安楽律院法流
本尊:帝釈天
創建年:834年
開山:慈覚大師円仁
御詠歌:こにこがれ おやがしとうて きてみれば まにのおやまは じょうどなりけり
札所:中国観音特別霊場
【県指定保護文化財】
仁王門(H17.11.29指定)18世紀後半頃
三間一戸楼門、桟瓦葺、入母屋造
公式サイト
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